Dec 7, 2008

20世紀ポップ・ロック大全集 Vol.5 愛と平和のサイケデリック・ロック

どうやら、当方が『20世紀ポップ・ロック大全集 Vol.5 愛と平和のサイケデリック・ロック -ドラッグカルチャーとしてのロック-』を観る時は、やや心細くなった時らしい。このBBCドキュメンタリーは、ボブ・ディラン「雨の日の女」(1966)で幕を開け、ウッドストック・フェスティバル(1969.8)まで一気に高揚して行くと、雪崩落ちるようにオルタモントの悲劇(1969.12)に至る……という構成になっており、『俺たちに明日はない』(1967)と類似のカタルシスを与えてくれるのだ。
もう何十回となく観ているが、今回は1967年1月14日にサンフランシスコのゴールデンゲートパークで行われ、Allen Ginsberg、Gary Snyder、Jefferson Airplane、The Grateful Dead、Quicksilver Messenger Serviceらが参加した集会、Human Be-Inの会場アナウンスに心奪われた。曰く、
I would say this to all the members of the Establishment.
We are happy and proud to have you in our brave new world.
字幕では、"体制側の者たちに告ぐ" "この素晴らしい新世界に諸君を迎え入れよう"なのだが、何とも甘美な響ではないか? 勿論、この甘ちゃんぶりにオルタモントの悲劇へと開かれた広い道を見出すのは容易い、が、しかし、この圧倒的な解放の一瞬を何に代えられようか!
それはともかく、"Brave New World"という言葉のHuman Be-Inでの使用は、恐らくシェイクスピア『テンペスト』のミランダの科白が木霊しているのだろう。
O, wonder!
How many goodly creatures are there here!
How beauteous mankind is! O brave new world,
That has such people in't!
(The Tempest (V, i))
『知覚の扉』が流行していた時代背景からすると、当時の人には(客層からしても)、この科白も引用されているAldous Huxleyの同名小説(1932)が最も身近だっただろうが、皮肉にも、Aldous Huxleyの"Brave New World"は、優生学的な管理社会を扱った逆ユートピア小説で、"Soma"という副作用なしのお薬のお陰で、どの階級もみんな楽しい気分♪ なのだ。
ところで、字幕の日本語訳、"この素晴らしい新世界に諸君を迎え入れよう"はいいね。多分、通天閣上ってから、帰りに串カツでも食わしてくれるんだろう。確かに素晴らしい。