Nov 11, 2017

ヒゲサキ(Chiropotes satanas)

私が春休み(2016年3月)に本物のヒゲサキに逢ってきたことは、地面に掘った穴の次くらいに当方の無駄口に寛容な実家の面々を皮切りに、始めはおずおずと、やがては声高に吹聴してきたものだが、いまだに正当な評価を得られた例はなく、恐らく羨望の念が彼らの本来無垢であるはずの瞳を曇らせているに違いなかった。「え、あのヒゲサキに? どうだった、やっぱり、髪の毛を真ん中で分けていた?」……というような自然な受け答えは、この薄汚れた世界ではもはや望むべくもないのだろうか? 私は人心の荒廃を嘆かざるを得ない。それは兎も角、このヒゲサキ、Wikipediaによれば、英語名こそBlack Bearded Sakiだが、学名はChiropotes satanas、仏語名はSaki noirもしくはSaki satan、独語名もSatansaffeもしくはSchwarzer Sakiで、どうやら黒やらサタンやらに関係するオマキザルなのである。


ヒゲサキ:黒やらサタンやらに関係するオマキザル(写真 : Wikipedia

ああら、サタンが、重たい髪を真ん中で分けて、入念なことにポマードべったり感まで出しているなんてイメージは微塵もないザーマス、と、君に言われても困る。サタンと来たら、ダンテの『神曲』とかミルトンの『失楽園』(日経に載っていない方)に触れるのが妥当というものだが、当方がまず思い浮かべたのは、The Rolling Stonesの最も煮詰まっている(何なら「傑作」と呼び直しても良い――Stonesにそんなものは必要ないだろうが)アルバム『Their Satanic Majesties Request (1967)』である。思えば、Bob Dylanの『Blonde on Blonde (1966)』といい、The Beach Boysの『Pet Sounds (1966)』といい、この先出口なしという煮詰まった傑作ロックアルバムがこの時期目白押しで、我々の心をそこはかとなく滅入らせてくれる。



そう言うわけで、The Rutlesの「Blue Suede Schubert」でお馴染み元祖ロックンローラー、シューベルトの、「魔王(Erlkönig)」ではなくて、折角だから、「悪魔の悦楽城(Des Teufels Lustschloß)」を聴こう。



とても十六七歳のロックンローラーの手による作品とは思えない! というような感嘆をしばしば耳にするが、それなら何歳のロックンローラーの作だったら相応しいというのだろうか?