不思議にみちたあの花が目の前に浮かんで見え、青年はたったいま背にしたテューリンゲンを、奇妙な予感を抱いてふりかえった。自分はこれから向かっていく世界からの長い遍歴を終え、いつかまた故国へもどってくるだろう、つまり自分はそもそも故郷へ向かって旅をしているのだ、という気がしたのだ。この出発の際に提示される帰郷についての伏線が、いかに回収されるものなのか/されないものなのかは、未完ゆえ知る由もないが、こういう円環のイメージは教養小説に一般的なものなのだろうか? 取り敢えず『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を読み直してみようと思う。……それにしても、「思い出作り」の為に旅行に行くような、未来からの目線を意識した現在の消費は非常に現代的ではないか?
Nov 18, 2008
青い花 / ノヴァーリス
ノヴァーリス『青い花』では、とりわけ、ほとばしる衝動で肝心な部分がクシュクシュっと折り畳まれてしまうその作品行為に心打たれる。興奮すると声が裏返って逆にマイクに乗らない『日本の仁義』の野坂昭如のようだ。ここではクライマックスは決して演出されるものではなく、寧ろ全ての演出をご破算にする。しかし、それはより高次なクライマックスなのかも知れない(うっかりすると読み飛ばしもするが……)。それはともかく、洞窟で見付けた未知の言語の本の挿絵で、自分自身の人生が書かれていることに気付いたり、恋人と出会った日に早速、川に吸い込まれた彼女が青い水の下で秘密の言葉を吹き込む夢を見たりと、今や典型的と言わざるを得ないイメージの中、久しぶりに「帰郷」のテーマ(これまた典型的な「帰郷」観)に直面する。