
あーと いってよ あー(福音館書店)
『あーと いってよ あー』というタイトルだけで、ぐっと来るのだから、この黄色い表紙の絵なんて見たら、もうたまらない。何て楽しそうなんだ、この人たちは! ただ、あーと言っているだけなのに。……出来たら私も仲間に入れて欲しい。そんな絵本。
「あーと いってよ あー」という言葉から、
電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよという結構好きな短歌を思い出して、これは穂村弘の『短歌の友人』の一番最初に引用されている東直子の歌なのだけれど、やっぱり「あーと いってよ あー」の方が、少なくとも現時点の私にはしっくり来る。それは、たぶん、おっ、て言うのは、二人だけの密やかな営みだからで、二人だけだからより複雑なインタープレイが出来る一方、みんなで楽しむには洗練され過ぎているからだと思う。
東 直子
『あーと いってよ あー』が、「こどものとも年少版」ではなくて、「ちいさなかがくのとも」ってところもいい。これは「かがく」なんだ。「うえを むいて あーと いってみて」「したを むいて (…)」という誘惑に素直に乗って、おずおずと声を出してみよう。すると、上を向くか、下を向くかで全然音が違うことが分かるはずだ(……身に浸みて体験するというべきか)。続けて、数々提案されるがままに、口や胸を叩きながら、喉に手を当てたりしながら、あーあーあーと連呼していると、本当に不思議な音が出るし、すごく楽しい。わくわくする。そして、しまいに、「(…)せかいじゅうのひとが いっぺんに あーと いったら、(…)」となった時点で、私ははっと気付くのだ、あーと叫んでいる私が誘われているところが、実はユートピアであることに……。
最近読んでいるJeff Kalissの "I Want to Take You Higher"というSly & the Family Stoneの伝記本の前書に、
I like playing with everybody, but I can only harmonize with a few.と、Sly Stone が2008年2月の日付で書いていて、その諦念ともつかない言葉に、文脈をはなれて落涙しそうになったのだが、つまり、みんなであーという非現実的な夢を見るのか、二人でしっぽり、おっ、て言うのか、(その両方をやろうとしたのが、John LennonとYoko Onoの"Bed-Ins for Peace"なのかも知れないが―それは欲張りってものではなかろうか?―)、私は、どうしても、みんなであーという夢を夢見たい。
因みに、『あーと いってよ あー』は、「ちいさなかがくのとも 2009年4月号」として出版され、バックナンバーは品切れ中。愛と平和のためにも傑作集か何かでの刊行を切に望む。
(2015年5月31日追記)本書は2015年5月15日に「幼児絵本ふしぎなたねシリーズ」として第1刷発行された。たぶん、愛と平和のために……。あー。